最終更新日:2014/4/18

デジタル広告賞審査委員講評

 「動画元年」といわれる年にふさわしく、動画を効果的に使った企画が光ったデジタル広告分野。タイアップ部門でデジタル広告大賞を受賞した日経トレンディネットのキヤノンマーケティングジャパン「PowerShot SX280 HS」では、コンパクトデジタルカメラの“動画性能”について、記事中で“実際の動画を使ってわかりやすく見せる”という、これ以上ないほどマッチしたコンテンツで読者の支持を獲得。10万を超えるPVと1万回を超える動画再生回数を記録したという好例だ。さらに、誌面上ではネットタイアップ上の「隠し動画」のありかを示すという連動の流れも工夫が効いている。ディスプレイ部門でデジタル広告大賞を受賞した日本IBM「ナノテクノロジー」のダブルレクタングルも、バナー画面上で動画アニメーションを再生させて目を引いた。テキストや画像で構成されたタイアップやバナーに“動画”を埋め込むことで、より深く、リアルに、インパクトをもってメッセージが伝わることを、あらためて実例で体感した本年の審査であったと思う。
 また、“日経BP社ならでは”の取り組みとして印象に残ったのが、媒体横断型タイアップ企画だ。タイアップ部門の優秀賞を受賞したインテル「Ultrabook」では、nikkei BPnet、ITpro、日経ビジネス オンラインの3媒体で、各媒体の読者層に沿った“独自のキャラクター”を立てて商品の魅力を紹介しながら、全体としては一つのストーリーとしてまとまっているという構成力が素晴らしかった。同じく優秀賞の日本郵便「年賀状」の企画が、吉本興業の多彩なタレントを起用し、Webと雑誌のクロスメディア展開を7誌+ 7サイトという規模で展開できるのも、優良デジタルメディアを複数分野で抱える日経BP社だからこその本領発揮ではないだろうか。
 一方で「デジタル広告賞」という冠のもとで、これまではまず、“デジタル領域ならではの新しい試みが行われているか”という先進性や技術を評価基準に押しがちであったが、市場成熟に伴い、三陽商会や兵神装備の作品など“タイアップそのものはシンプルな仕立てながら、ストーリィ構成や画像・文章表現といった、コンテンツそのものが読み手に迫る”企画が逆にしっかりと評価されるステージになったことも、非常に印象的だった。
 個人的に、今後に向けて楽しみなのが、スマートフォンを効果的に活用したデジタル広告。持ち歩ける、手元で見るメディアだからこその新しい提案が、日経BP社のさまざまな媒体から生まれてくると期待している。

 日経BP 広告賞デジタル部門の審査を担当させていただくのは今年で3 回目になるが、今年も新しい広告の形に挑戦している施策の数々に触れさせていただくことができたと振り返っている。特にネット広告業界においてはアドネットワークを中心としたテクノロジーの進化もあり、どちらかというとアトリビューションやリターゲティングなどの技術面での議論が先行している印象もあるが、今回の審査ではやはり最後に重要になるのはコンテンツやクリエーティブであるということを改めて痛感させられた。
 デジタル広告大賞に選ばれたキヤノンマーケティングジャパンの「PowerShot SX280 HS」のタイアップは、一見するとオーソドックスなスタイルのタイアップ施策にも見えるが、デジタルカメラの特徴を読者に理解してもらうために、必然性の高い動画を組み込むことで非常に高い動画再生数をたたき出している上に、紙媒体との連動もうまく活用しているのがとても印象的だ。また、独自の世界観をうまくデジタルの世界でも表現している三陽商会「ポール・スチュアート」のタイアップ施策にはクリエーティブの力の重要性を強く感じたし、インテルや日本郵便のように日経BP 社が持つ複数の媒体の読者層の特徴に合わせて個別にコンテンツを作成し、媒体横断でつなぐことによって広がりを生もうとする取り組みが増えてきている点も非常に興味深い。
 いわゆるバナー広告の分野においても、デジタル広告大賞に輝いた日本IBMの、むしろマイクロコンテンツと呼んだ方が良さそうな程に凝った作りのバナー広告をはじめ、まるで映画のワンシーンのようなリシュモン ジャパン カルティエのバナーなど、広告と呼ぶべきかコンテンツと呼ぶべきか迷う新しい「広告」手法への挑戦が増えてきているように思う。そんな中、個人的に今後の挑戦として注目したいのは、継続によるコンテンツ化の可能性の深掘りだ。
 今回の広告賞においても、長年日経BP 社と共同で取り組んできたことで、総数100ページを超え、ある意味公式サイトよりも公式サイトに近い一大コンテンツに育っているパナソニックのタイアップや、日経BP 社の記事広告企画で知り合った企業同士が共同で新しいビジネスを創出するプロセス自体を展開した兵神装備の「開発の鉄人」企画などが優秀賞を受賞している。こうした、そもそもは単発を前提としているタイアップ施策が、継続されていることによりさらなる付加価値を生み始めている事例が増えているのは非常に興味深い。スマートフォンやソーシャルメディアの普及もあり、企業のコミュニケーションも広告枠を通じた一方的で短期集中の情報発信だけでなく、中長期を意識した双方向での関係構築やコンテンツ作りの重要性が高まっていると言われているが、いわゆるタイアップ施策においても、そうした中長期の関係性を意識した取り組みの可能性が増してきているのかもしれない。
 今後、カテゴリごとに読者のコミュニティを持っている日経BP 社ならではの特徴を生かした新しい「広告」の取り組みが増えることに引き続き注目していきたい。

 「言いたいことは何なんだ、さっさと結論を言え…」。これが今のインターネット上のコミュニケーションムードだ。個々は自分なりの答えを探しながらも、目にする情報に対して常にハッキリとした結論を求めようとする。そこにはネットで探せば求める解を素早く導き出せるはず…という思い込みはあるのだが、サマリー情報では解を得られない懊悩も出現し、いよいよ辿り着いた先の情報深度が問われ、専門性の高い信頼できる情報ソースの価値がますます高まってきている。
 また、この1年で表現も多様化し、写真やインフォグラフィックスの多用が一般的となった。だが20年以上前のマルチメディアやユビキタス概念が高度に実現したいま、時代は映像での訴求が当然という流れを生んでいる。さらにその映像も、いわゆる「サビ頭」という手法であり、だらだらと説明する映像は見向きもされない。解を示しながら楽しませる工夫が求められているのだ。
 こうした変化を考え合わせてみると15年前に提唱されたアテンション・エコノミー(人々の時間を無駄にしない価値)が今日、現実に展開されていることがわかる。好感度を得ることとインパクトのある訴求はもちろんだが、素早く内容を掴ませる興味喚起、理解に十分な情報を与えるという両極の融合が、コミュニケーション価値向上においてさらに顕著になってきた。こうした背景を元に、今年度の審査は始まった。そして、まさにアテンション・エコノミー原理そのものが審査結果へと導き出されたように思う。
 ディスプレイ部門でデジタル広告大賞に選出された日本IBMの「ナノテクノロジー」は、従来のバナーという概念を覆す強力な訴求力を持っている。映像による強い興味喚起、アニメーションによる直感的な理解、さらにボタンで縦にスクロールさせるという限られたスペースの活用。今日使える技術とアイデアの融合は高く評価したい。
 タイアップサイトでデジタル広告大賞に選ばれたキヤノンマーケティングジャパンの「PowerShot SX280 HS」も、アテンション・エコノミー価値である「興味」「理解」「インパクト」それぞれの深度が評価された。すでにデジタルカメラは静止画ではなく動画機能の訴求の時代。そこに合わせて「動画コンパクト」というカメラ量販店にはない新たな切り口や映像を使った理解促進は説得力があった。優秀賞の中では、リシュモン ジャパン カルティエの「TANK/ Winter Tale」が、美しい映像をバナースペースの中で展開し、見るものを違和感なくファンタジーの世界へと誘うことに成功している。これらの作品は、今後のクリエーティブに大きな影響を与えることは必至であり、審査会では「時代を切り開いた」という声も聞かれたほど他と一線を画すものであったことを特に述べておきたい。

 今回も昨年に引き続き審査をさせていただいた。デジタル広告の伸びが支えた1年ということで、1996年からネット広告に携わってきた私には今のデジタル広告の成長は嬉しい限りである。実はこの1996年は、電通の「日本の広告費」に初めてインターネット広告が項目として登場した年で、16億円だった。先日の「日本の広告費2013年」では、制作費を入れると9381億円とそろそろ1兆円を覗うところまで成長している。何と586倍だ。この17年の間にネット広告の業界は様々な試行錯誤を繰り返して、たいへん多くの知見の蓄積を果たしてきたと言えるだろう。
 今回のデジタル広告賞の審査でも、こうした「蓄積」を感じることができた。比較的小さな広告スペースでも、そこにはコンテンツの奥行きがあるものが非常に多くあり、かつタイアップ系では時間と労力をかけてのコンテンツの蓄積があった。それだけ、デジタル広告の効果への期待値が高いことを示している。関係者(広告主、媒体社、制作者ほか)がデジタル広告の効果を評価して、コストと時間と労力と、そして熱意を投じて創っていることに感銘を受けた。
 日経BP社の媒体に掲載する広告ということで、審査で見る作品はBtoB広告が多いのだが、デジタル広告というインタラクティブな仕掛けが駆使できる環境でこそ、BtoB広告もクリエーティブアイディアを存分に展開できるようになったのではないだろうか。「BtoB広告も面白い」。それをつくづく感じる。
 従来ネット広告というと、様々な広告メニューがあり、主にどこに掲載するか(どの広告メニューを選択するか)が効果追求の対象になっていた。それが次第に「枠から人へ」と配信対象のオーディエンスを選ぶ仕組みにもシフトしている。しかし、最終的には、オーディエンスも掲載面も、そして何より「クリエーティブ」が最適化されていないといけない。クリエーティブが一番大きな変数であるのは間違いないのだ。
 今後は純広告もバナー広告、ディスプレイ広告だけでなく、動画広告も主力になってくるだろう。それはクリックよりも認知や購入意向を醸成することを目的として、デジタル広告が活用されるようになるということだ。つまりブランディングに寄与するデジタル広告。マス広告と同じ効果指標をもってデジタル広告も使われることで、マスとデジタルは同じ土俵に乗り、相乗効果や配分モデルが検討されるのは自然な流れだ。
 その意味でもクリエーターの進化が求められる。従来のコピーライティングとビジュアルデザインに加え、今後はインタラクションデザインという機能もより必要となっていくだろう。ゲームクリエーターの世界などからも、デジタル広告クリエーターが現れることを期待している。

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