最終更新日:2014/4/18

審査委員長講評

「第20回」にふさわしい秀逸ぞろいの受賞作品

 日経BP 広告賞は1995 年の第1 回の審査に始まり、2014年の今回の審査で20回という大きな節目を迎えた。これまで本広告賞では、多くの企業を表彰させていただいてきているが、今年は節目の年にふさわしい優れた作品が多数集まり、審査に携わった私たちにとって、大変嬉しくまた素晴らしいことと感じている。
 さて、最終審査会は2 月12 日に実施された。40 タイトルを超える雑誌を刊行しており、我が国を代表する日経BP 社の広告ということもあり、各部門を代表する広告はいずれも秀逸で、そこから広告大賞、最優秀専門広告賞、環境広告賞を選出するという審査は困難を極めた。それでも、各委員が納得のゆくまで議論を重ね、以下のように各賞を決定させていただいたことをご報告したい。
 第20回日経BP広告大賞は、日本マイクロソフト「Office365」に決まった。形のないコンピュータシステムを読者へ的確に伝えるため、実際に導入されている企業名を挙げ、サービスの内容を示している。例えば丸紅では、メールシステムをクラウド化し、コミュニケーションの円滑化とコスト削減の達成を説明している。また日本航空では、約2 万人のメール基盤を構築しているといった具合である。左側に見事にデザイン化された企業名とコピー、そしてOffice 365 のロゴを置くことで目を引き、右側のメッセージで理解を深めている。まさに広告大賞にふさわしい仕上がりで、審査委員の間で高く評価された。
 最優秀専門広告賞に輝いたのは、富士通エフサスの「オフィスまるごとイノベーション」で、広告大賞と同様にやはりサービスを広告している作品である。「遠隔なのに、円卓で会議。」「在宅なのに、在席の業務。」「自由席なのに、指定席の効率。」などのコピーの力とともに、オフィス、外出先、劇場といった計算しつくした写真を用いて、訴えたいメッセージを見事に強化している。自宅や外出先でも効率的なビジネスができ、離れた拠点間を結びつけ、知的なコラボレーションを生みだす先進的なテレワークを読者に訴えている。
 環境広告賞は「プラネットジャパン」が受賞した。100%植物油とワックスを原料とした純・自然塗料「プラネットカラー」の広告であるが、実際に商品が使用された建造物を大きく映し出し、木材を長期間にわたって利用することを通じて、環境への配慮を訴えている。環境という課題に対して、新しい視点を私たちにもたらしてくれている点が評価された。
 なお昨年に続いて、今回は第20 回記念という形で審査委員特別賞が選出された。パナソニックの「元気製品をつくろう。」という作品である。事業部の枠を超えた企業広告で、社外だけではなく、社内の人々にも目を向け、日本の家電産業にエールを送る仕上がりになっている。また各ページでテイストを変えることにより、パナソニック製品の守備範囲の広さを見事に伝えている。本作品を審査委員特別賞として選出するにあたり、多くの審査委員から強い推薦があったことも付言しておきたい。

恩藏 直人
早稲田大学 商学学術院 教授。1982年早稲田大学商学部卒。1989年早稲田大学専任講師などを経て1996年より教授。2008年から2012年まで商学学術院長兼商学部長。
著作に『コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理』(共著、丸善出版) 、『マーケティング論 改訂版』( 放送大学教育振興会)、『マーケティング戦略 第4版』(共著、有斐閣)、『コトラーのマーケティング3.0』(監訳、朝日新聞出版)など多数。

最終審査委員講評

 ブランドには3段階ある。いい商品で使い手に感動を与えるのが基本だが、その上でごく少数の使い手にしか知られていないのが第1段階。多くの使い手に知られているが「世論」になっていないのがその次。「…という」メーカーというように「という」が付くのがこの段階だ。使い手以外の人も知っていてみな一目置くのが最終段階。第三者が普通に「トヨタ」と言い「トヨタという自動車メーカー」と言う人はまずいない。この第2段階から第3段階への壁は思いのほか高い。
 この壁を越えるのに大きな役割を果たすのがマス広告だ。マスは終わったと言われながら実はこの役割があるかぎり終わることはないだろう。特に、モノづくりやITという専門的分野での専門的マス媒体ではその力は無視できない。この日経BP広告賞の、他にはない役割もそこにあるように思う。もちろんただ出稿すればよいというわけではない。適切なメッセージ、適切なタイミング、適切な量が揃って初めて有効なものとなる。その意味で、当賞の審査会では素晴らしい仕事をしながら「…という」付きでしか語られることのなかった企業を一気に全国区にするアクションを積極的に評価してきた。
 何といっても近年の一番の例は兵神装備だろう。2010年に突然広告大賞に、2013年には最優秀専門広告賞に輝き、今年も最後まで最優秀専門広告賞の議論に上った。おそらく業界での知名度も一気に上がっているに違いない。年々洗練度が増していていいのだが、逆に「あの素朴さがよかったのに」と残念がる委員がいるのもこの広告賞らしいところだ。今年もその他に、地味ながら自然木の良さを前面に出した木造建造物用の塗料ブランドのプラネットジャパンが環境広告賞に選出され、シンプルなメッセージと目を奪うビジュアルで迫ったDigi-Keyも最優秀専門広告賞を最後まで争ったことも、他の広告賞には見られない特色だろう。今回はあえて触れなかったが、広告大賞の日本マイクロソフト、最優秀専門広告賞の富士通エフサスの両社にはもちろん心からお祝いを申し上げたい。
 私がお手伝いした小さい食品メーカーでは、以前、周到な準備を重ねて大枚をはたき全国紙の全面広告を打った。それを見た大勢の顧客や関係者が社長に「見ましたよ、よかったね」とうれしそうに電話やメールをくれたのを思い出す。いい広告は自然と周りがうれしくなるもの。この日経BP広告賞もそのような役割があることを忘れずに長く続いてほしい。

 今年の2月下旬に電通から「2013 年 日本の広告費」が発表された。金額で約6 兆円、対前年比101.4%と、2 年連続で前年を上回る実績である。媒体別には増減があるが、今回の結果は、持続的な景気の回復傾向等が要因であると分析されている。広告が世の中の一人ひとりの生活に密着したものであり、社会全体の活力を生み出す源泉の一つであると改めて感じているところである。今回の応募作品にも勢いや明るさを感じられるものが多かったように思う。
 雑誌媒体は、雑誌ごとに読者の属性や嗜好等がはっきりしており、お客様自らがお求めいただくという点で他の媒体とは大きく異なる。このため、雑誌広告は、ターゲットのお客様から読み飛ばされず、しっかりと中身を見ていただけるよう様々な工夫が凝らされている。広告コピーだけでなく、使用する文字の大きさ、お客様の目の動きに合わせたレイアウトなど、雑誌広告は芸術作品ともいえるものまで昇華させなくてはならない。
 そういった意味で、私は今回初めて審査会へ参加させていただくにあたって、広告のオリジナリティとしての「斬新性」、表現・デザイン面からの「クオリティ」及びターゲットに対する「共感性」の3つを審査基準とさせていただいた。
 日経BP 広告大賞に選ばれた日本マイクロソフトの「Office 365」は、日経ビジネスにおいて、当該製品が様々な企業で導入されている内容が紹介されたシリーズ作品である。特に、まず初めに目に飛び込んでくる各企業を表すデザインは、誰もが一目でその会社であることがうまく表現されており、製品ロゴとも実に見事に融合している。色使いも基本的にブルーで統一されている中、日本航空だけが赤色であるのもおもしろい。また、解説も適度なボリュームで構成されており、読み手を飽きさせない。左右のページがうまく対比した非常に完成度の高い作品である。
 また、第20 回記念審査委員特別賞のパナソニックの「元気製品をつくろう。」も雑誌広告として斬新性ある作品である。通常の広告でよく見られる製品の差別性・優位性を訴求するのではなく、現代社会が抱える諸問題とモノづくりへのこだわりが巧みに連関したものになっている。
 今回受賞された作品に携わった全ての方々に改めて敬意を表するとともに、多様化・複雑化するメディア環境の中で、広告が持つ「世の中を明るくする力」が、今後どのように進化し、新たな芸術作品が生み出されるのか大いに期待したい。

 国には国を支える代表的な産業と企業が存在し、その活躍を通じて私たちは自国に対して自信と誇りを持つ面がある。その優位性が続き強固な地位が揺らがないものだと錯覚していて、そこで少しでも他国の企業が優勢に出ると、今度は必要以上に自信を失うことがある。
 力を過信しておごる姿は大人げないが、過度な自信喪失は本来備えている可能性を閉じる危険性をはらむ。今、この国に必要なのは物事を肯定的にとらえ、可能性に挑戦する勇気を携え、主体的に行動を起こすことだ。
 今回、第20 回記念審査員特別賞を受賞したパナソニックの見開きマルチ広告作品「元気製品をつくろう。」は事業部門間の垣根を越え、補聴器からGOPAN(米からパンをつくる家電)、東京スカイツリーで使用されているLED、そしてスマートフォンを活用したスマート家電を通じて、同社が90 年以上にわたって暮らしを見つめてきたから生み出せた製品群を「元気製品」として訴求した。この広告は日本のお家芸ともいえるモノづくりを実践してきたトップ企業が、自社の存在意義を社内に再認識させ、生活者には自社製品を通じて一人ひとりに元気を提供する企業であることを宣言している。単なる企業・製品の広告に終わらず、「社会の高齢化」や「お米の消費量」「ひとり暮らし世帯の増大」といった社会構造変化に関するバックデータを引用し、こうした潮流を踏まえたモノづくりを実践していることにも言及している。映像表現も秀逸で、企業の思いが読み手にはっきりと伝わり、元気が溢れる。この企業は再び世界を魅了する力を発揮する、という確かな手ごたえを感じた。
 環境広告賞を受賞したプラネットジャパンは、イメージ広告ではなく自社製品を通じて環境保全に取り組む同社の企業姿勢を美術館の採用事例を通じて語り、業界の意思決定層に注目させた。優秀電子・機械広告賞を受賞した兵神装備にも指摘できることだが、取引先関係者に“限られた予算で効率よく自社と自社製品の存在を訴求”できるのは、日経BP 社の専門誌の存在があるからだ。また日経BP 広告賞を受賞したことで、他の受賞企業を中心にその名が一躍知られるという相乗効果も生まれた。専門誌を有効活用したコミュニケーションは、BtoB 企業にとっては営業活動に直結する手法といえる。
 今回の受賞作品を通じて感じるのは、世の中の流れに身を任せるのではなく、自らの手で時代をつくり出そうと動き出した企業が台頭を始めたことだ。じっとしている時代は終わったと、確信できた。

 今回の審査を通じて、雑誌広告の底力を強く再認識するに至った。ページを開いた瞬間に感じる商品・サービスに対する「驚き」。メッセージを読み取る中で深まる「付加価値の理解」。広告を見終えた時には、商品・サービスの背景にある企業人の思いへの「共感」まで得られる。我々が一つの雑誌広告に目を留めるのは数十秒ほどに限られるかもしれないが、そこには、商品・サービスの上市に至る企業と企業人の長い歴史/ストーリーが凝縮されている。
 今回の4つの上位作品は、いずれもこうした「驚き」「付加価値の理解」「共感」を特に巧みに表現しているものである。
 日経BP 広告大賞に輝いた日本マイクロソフトは、顧客企業のOffice 365の活用を大胆な構図と色使いで示し、読者の関心を引く。各社の事業を企業ロゴに依存せず、独自のビジュアルで簡潔に表現する手法は斬新だ。読者は、顧客企業のOffice 365活用の詳細を示した文字稿へと誘われ、商品付加価値への理解を深める。
 最優秀専門広告賞の富士通エフサスは、「在宅なのに、在席の業務。」等のコピーと、「畳の上に置かれたビジネスデスク」等の背景写真を“意外感”を軸に組み合わせ、ICTがオフィス空間にもたらす革新を“納得感”高く、描き出している。動画全盛の時代にあって、写真と文字の組み合わせが持つメッセージ力の強さを改めて認識する作品だ。
 環境広告賞のプラネットジャパン「プラネットカラー」の作品は、自然と見事に調和した建物とそこでの自然塗料の活用を示すことで、我々が経済活動を継続する中でいかに環境問題と向き合うべきかの一つの考え方を示す。「真摯に未来を考え、今を創造する。」「いにしえの叡智に学び、今あるいのちと響きあう。」というコピーは、同社の商品広告を超え、現代社会に対し示唆に富むメッセージを発している。
 第20 回記念審査委員特別賞のパナソニックは、「元気製品をつくろう。」という企業の思いを見事に伝えている。製品化の背景にある社会問題をさりげなく伝え、技術を前面に押し出すことなく、それでいて消費者目線で技術的な特徴はしっかり伝える。そして、製品が実現する付加価値を、人間味あふれる写真像で表現する。広告の中に、パナソニックが目指すものづくりの在り方が活き活きと再現されており、審査員一同の共感に繋がった。
 広告が企業活動の鏡だとすると、今回の審査を通じて見えてきたのは、自らの商品・サービスの付加価値をしっかりと定義し、自信を持って邁進する、元気ある企業の姿だ。日本経済の将来に対して、大きな勇気を頂戴した審査プロセスであった。

 私は広告のアートディレクターとして制作の現場にいたので、制作者の頑張り・執念のようなものは伝わる、と信じている(もちろん商品やサービスのポテンシャル、クライアントの強い思いが最重要であるが)。
 オリエンされたテーマを最も魅力的に読者に伝えるのはどんなやり方か? 長くこの仕事をやっていても、一つとして同じ課題はなく、毎回悪戦苦闘している。とはいえ仕上がりに悪戦苦闘の後がにじみ出てはいけない。いつも至極簡単に出来上がったような顔つきでいる。今回はそんな広告に多少の嫉妬も感じながら投票させていただいた。
 日経BP広告大賞の日本マイクロソフトはまさに簡単に出来上がったような、しかし十分に練られているなと感じる。「あの会社」も、「この会社」も、導入しているシステムであるということを、実に簡潔に嫌みなく伝えている。撮影はなく、デザインとタイポグラフィーだけなので、制作費は高くないと想像されるが、その分制作者のテクニックに特別ボーナスを、と応援したくなる(笑)。登場していただくユーザーとしての会社との交渉、調整には困難もあったことが推察される。シリーズとして、これでもか、これでもか、という累積効果も効いていると思う。
 最優秀専門広告賞の富士通エフサスは、コピーとビジュアルがそれぞれにキチンと仕事をしていて、その掛け算が強いインパクトを生んでいる。広告の基本的なことであるが、その掛け算を最大値にすることの大切さを痛感した。コピーライターとアートディレクターがそれぞれに全力を尽くせた仕上がりと言えるだろう。
 環境広告賞のプラネットジャパンは新しい環境商品の可能性と打ち出し方に票が集まったようだ。個人的には、ぱっと見ではわかりにくくアートディレクションの点で少し惜しい気がした。
 広告大賞を争い惜しくも次点となったが、第20回記念審査委員特別賞となったパナソニックの作品「元気製品をつくろう。」は、何のために家電品を製造しているかに立ち返り、人々を元気にするためというシンプルな答えにたどり着き、企業としても元気を取り戻した感があった。上向きかけてきた今の日本、私たち自身に重ね合わせられるような素敵な広告になっていたと思う。
 今回の日経BP広告賞の審査を通じてあらためて「良くできた広告は、企業を、世の中を元気にする」という思いを強くした。制作サイドとしてもより高みを目指そうという決意に至らせてくれた審査会であった。

 広告とは、誰に向けたメッセージなのか? クライアントがユーザーに向けたメッセージであることは間違いないが、今年の日経BP広告賞の作品を眺めていると、受け手の多様性を感じた。
 今年の日経BP広告大賞を受賞した日本マイクロソフトは、企業担当者向けの企業広告で、ユーザーを紹介する仕組みとなっている。ユーザー名やロゴをそのまま掲載すると、クライアントである企業名が伝わらず、どっちの企業の広告か一瞬で判断できなくなる。そのため、ユーザー名を英語表記に、その業務内容をデフォルメし、さりげなくPRしているところに、用意周到に計算されたクリエーターのデザインの力がそこにあると思う。
 最優秀専門広告賞を受賞した富士通エフサスも、企業担当者向けの企業広告であるが、その機能や特徴を文字の力と写真の力の組み合わせで表現したところが素晴らしい。文字の韻を踏む心地よさと写真の奥行き感から立体的な広告に感じる。さらに、第20回記念審査委員特別賞を受賞したパナソニックの「元気製品をつくろう。」というメッセージは、低迷する家電業界全体へのメッセージでもあり、自社内グループの部署への自戒のメッセージとも感じる。これまでの製品の機能をユーザーに説明するという広告の概念を大きく変革させた広告ではないだろうか。環境広告賞を受賞したプラネットジャパンのプラネットカラーは、木質系の塗料として、専門家への技術広告というのは明確で、屋外の紫外線劣化した色彩と屋内の木質の温かみのある色彩を飾ることなしに伝えている所が嬉しい。
 最優秀建設広告賞は、LIXILの製品広告で、専門家に向けた広告でありながら、その先の消費者にも向けられるという階層的な広告となっている。専門家には、その機能を物理的にわかりやすく伝え、消費者には、写真から使用したイメージから製品の快適性を伝えるという手法であり、日常のビジネスシーンの展開まで想定された広告の組み立てとも感じる。優秀建設広告賞は、三協立山のARM-Sと明電舎のセラミックインサートの広告である。ARM-Sは、専門家へ向けた技術を図面という媒体を利用しながらもわかりやすく、美しく表現したものであり、セラミックインサートは、インパクトにより専門家を注力させ気付かせる力が輝いた広告となった。
 広告とは、誰に向けたものなのか。単純にクライアントが製品を専門家に向けるという図式だけではなく、ビジネスシーンを想定して、もう一つ先の消費者まで向けられているという戦略性を感じられる。もちろん、その戦略的なメッセージには、クリエーターのデザインの力が大きく関与している。

 第20 回を迎えた日経BP 広告賞の審査はいつものことではあるが、時代を反映したものであったと言えるだろう。今年の特色としては、自動車関連の広告が審査対象にほとんどなかったような気がする。 しかしながら、昨年は極端に減っていた電機関連の作品が見られたのは、広告が景気に左右されるということの証左であろう。今回、上位の賞に選ばれた作品はもちろん、最終審査会に推薦されてきた作品の多くが常連企業であるのもここ数年の傾向のように思えるが、企業によっては昨年までの傾向と違うイメージを新たに作っているのではとみられる作品があったことは、来年以降にどのように展開するのかを考えさせられた審査会であった。本年度の日経BP 広告大賞を受賞した日本マイクロソフトの作品はシンプルで上品なデザインの中にたくみにユーザー企業の幅広さを出している。ユーザー企業での製品の使用目的の説明を企業の戦略・方針とともに表現している作品であり、なかなか説明のしにくいITとソフトウェアの使い方の広さをも読み手に伝えられている。従来型の製品の説明でなく使い方の説明が今後の広告の主流になるのではとの印象は、世の中が品質とコストの先を求めているということを示しているのであろう。
 最優秀専門広告賞に選ばれた富士通エフサスの「オフィスまるごとイノベーション」と名付けたシリーズ作品は、色使いも設定に合わせていることなど目を引くものになっている。環境広告賞を受賞したプラネットジャパンは、塗料という一般の人には目に触れるものでないものを丁寧にしかも100%自然というキーワードで思わず読ませてしまうことで印象づける訴求力を持ったものであり、うまい作品だと言える。また、シリーズの2 作品の一方が和風の木造建築、もう一方が洋風の建築の中にうまく塗料が使われていることを理解させられ、まさに環境広告賞にふさわしい。第20 回記念審査委員特別賞のパナソニックの作品は、日本の電機業界の現状を打破しようとしている会社の在り方、つまり単なるいいもの作りから、ものことづくりへの転換を丁寧に説明しており、従来の広告から一歩踏み出した企業広告のようにも見える。このほかにも最終選考に残った作品は、さすがに各部門において最優秀・優秀ということで選ばれている作品であり、甲乙をつけるのが難しいものであった。
 電子・機械広告賞のインターネットへの誘導を目的とした作品は、時代がインターネットに移っていることを示すものであるが、そこでも紙媒体・雑誌の広告の必要性・存在価値を示すものといえ、逆に今回も紙媒体の存在価値を改めて実感した審査会であった。次回がまた楽しみである。

 当たり前の話だが、作品的な品質と、効果という品質と両方を持った広告表現を創るには、商品に対する理解は欠かせない。だが、特に日経BP 社の雑誌に掲載されるような、主にBtoBの製品を扱った広告となると、話はさらに難しくなる。まず、日常的な生活者の感覚だけでは、商品の良さや利便が実感しにくい。それだけではない。特に、アートの面においては、利便だけでなく、商品のトーンや温度感までも正しく把握していないと、効く広告は創れない。
 今回、日経BP 広告大賞となった日本マイクロソフト、そして最優秀専門広告賞となった富士通エフサスの作品は、その把握の点が非常に正確であると同時に対照的だったと感じる。日本マイクロソフトの方は、実写表現を完全に排した2次元の作品。ブルーとオレンジのアイコン表現だけで、納入先の業態を表現したものだった。一方の富士通エフサスは、3作ともに空間表現であり、消失点を使った遠近法で広い空間を表現した。このことは、表現する制作者と採用した側とが、いかに商品の意味を良く把握しているかを表している。Office 365は、クラウドによるグループウェア。目に見えないし、実体を問われても提示しにくいし、商品カットもない。それでいて、非常にビジネスの場では身近な商品だ。なまじな表現では価値は伝えられないのではないか。そこで制作者たちがとった戦略は、「すべてをロゴ化する」作戦だった。納入先の業態を、切り絵に近いアイコンでスパっと表現し、商品の存在感と存在理由を、文字通り切り取ってみせた。対して、富士通エフサスは遠隔オフィスを実現する商品。「ICTも、空間も、まるごと変革」、これは空間表現しかない、と当事者は考えた。存在しないはずの空間がそこに出現する。時空間を曲げ、遠くと遠くを結合する。商品の価値を誌面に定着する、制作者たちの価値把握力、可視化する力が、この2 作を受賞に導いたと思う。
 環境広告賞は、プラネットジャパンに決まった。環境広告というと、どうしても地球や森林の図柄で未来を語る表現が多いが、この表現は、まさに自社の商品を使用して作られた今ある実物を、そっと差し出してみせた率直さが、評価を集めた。そして最後に、第20 回記念審査委員特別賞として、パナソニックの商品連合広告が推薦を受けた。マルチ広告で一枚一枚のアートのトーンを全く変えた野心的な絵作り、社会的・客観的なデータで語り尽くした話法、そして何より、自社だけでなく電気製品というカテゴリーそのものを元気にしたい、という射程距離が見え隠れするところが、時代にふさわしかった。
 2013 年も、BtoB 広告の世界にしたたかな創り手がいて、素晴らしいクライアントがいたことを、記録に残すお手伝いができた。そのことを喜び、そしてリスペクトしたい。

 本年度は第20 回を迎えるという日経BP 広告賞の節目にあたる年であったが、幸いにもアベノミクスによる景気回復により広告収入の増大がみられる中での審査となった。例年のことではあるが、本年度も大変な激戦となり、日経BP 広告大賞を制した日本マイクロソフトと惜しくも次点となったパナソニックのそれぞれの作品は本当に僅差の争いで、審査員の評価も二分された。最終的には、日本マイクロソフトの広告がパートナー企業のロゴを使わずに、相手企業の内容に応じて詳細な作りこみをしていることが評価され、最終審査会を制した。ご覧になればわかるように、JALとのバージョンではカラーを赤くするなど相手の企業イメージをうまく盛り込んだ訴求力が秀逸である。残念ながら広告大賞は逃したが、パナソニックは復活する日本のモノづくりの伝統を「元気製品をつくろう。」という合言葉で色々な製品群を表現しており、大変素晴らしい出来であった。まさに第20 回記念の審査委員特別賞にふさわしい内容である。最優秀専門広告賞も大変な激戦であったが、最終的に再投票により富士通エフサスが選ばれた。決め手は、事業内容をわかりやすく広告表現に変換している点であり、「遠隔なのに円卓」「在宅なのに在席」「自由席なのに指定席」といったウィットに富んだコピーが目を引く。環境広告賞に選ばれたプラネットジャパンは、説明のいらないほど環境に対する配慮がコピーからわかると思う。
 私の専門の医療広告賞であるが、本年度は最優秀作品にエーザイの認知症に関する広告が選ばれた。こちらも大変な激戦であったが、最終的に治療薬が前面にでることが多い医療広告において丁寧に認知症の説明を行い、医療関係者でなくとも興味を引く内容になっていること、一方日本発で世界のスタンダードな認知症の評価方法になった「長谷川式」の発明者である長谷川先生を取り上げていることなど、医療専門家の興味も引くという多彩な構成になっていることが評価された。残念ながら最優秀賞には僅差で届かなかったが、製品の特性を出すのが大変困難な医療広告の中で、イルベサルタンとフルイトランの配合剤であるイルトラの強力な血圧降下効果を車の両輪にたとえ、大変力強いメッセージを出している塩野義製薬の広告も秀逸であった。例年のことではあるが、常連の塩野義製薬は広告制作がうまく、今年もアイデアに唸らされた。もう一つの優秀賞作品であるサノフィのランタスは、薬の持つ効果を日本の光景をうまく利用して表現しており、卓越したアイデアと評価された。今年は広告での表現制限が特に厳しかった医療広告であるが、本年度もレベルの高い作品が集まっていた。来年度も、卓越した広告を期待したい。

ページの先頭に戻る