最終更新日:2014/4/18

識者に聞く

広告活動とレピュテーション・マネジメント

伊吹 勇亮
京都産業大学 経営学部 経営学科 准教授

1. はじめに
 昨年(2013年)12月24日、消費者庁より「いわゆる健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」という新たな広告ガイドラインが公表されました。これまでも健康食品等については健康増進法に基づいたガイドラインが制定されていましたが、事例を増やし景品表示法とも連動させることで、より効率的かつ効果的な運用を企図し、新たに留意事項として策定されています。
 このガイドラインのポイントはいくつかあるのですが、その中でも今回取り上げたいのは「メディアの責任が明確になった」という点です。

(2) 対象となる事業者虚偽誇大広告を禁止している健康増進法第32 条の2第1項では「何人も」と規定されている。このため、同項の対象は、「食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をする者」であれば、食品の製造業者、販売業者等に何ら限定されるものではなく、例えば、新聞社、雑誌社、放送事業者等の広告媒体事業者のみならず、これら広告媒体事業者に対し広告の仲介・取次ぎをする広告代理店、プロモーションサービスプロバイダーも対象となり得る。

(「いわゆる健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」第3の2より抜粋)

この点については、パブリック・コメントにて「広告表現に対する過剰な規制を誘発し、言論、表現の自由を大きく損なうことにつながると懸念する」という意見があったにもかかわらず、消費者庁が明示することを決めたことが、注目に値します。
 この新たなガイドラインに対して、広告主の取りうる行動には2 つのものが考えられます。1 つは、考査の「甘い」メディアとともに、広告効果を高めるべく、ガイドラインぎりぎりの線を狙って広告を展開するというものです。もう1つは、考査の「辛い」メディアとともに、ガイドラインの趣旨を理解し、適切かつ広告効果の高い広告表現とはどのようなものかを模索するというものです。実際にこのガイドラインが公表された後の広告を見てみると、前者で対応している広告主もあれば、後者で対応している広告主もあるようです。

2. なぜ「リレーション」「エンゲージメント」なのか
 近年の広告界では、「ブランド・リレーションシップ」や「メディア・エンゲージメント」という言葉をよく耳にします。日経BP広告賞の本項「識者に聞く」においても、昨年のタイトルが「ブランド・リレーションシップ」、2011年と2010年がそれぞれ「雑誌エンゲージメントから考える効果的な雑誌広告」「メディア・エンゲージメントが広告態度に及ぼす影響」であり、これらの言葉が中心的に取り上げられていることがわかります。
 それぞれの概念の詳細は各年の識者の論考に譲るとして、ここではなぜ「なんらかの形での関係構築」が広告活動において重要なのかについて考えます。筆者は、大きく分けて2つの要因があると考えています。1つは、2011年3月に発災した東日本大震災以降の社会のムードです。「絆」「共感」などのキーワードをいたるところで見るようになり、関係を構築することで自分が相手にとって放っておけない対象となることに価値を見出すような世の中になってきています。広告主は消費者との間で関係を構築することにより、消費者にとって広告主のことが放っておけないような存在になることを(そして他社のブランドではなく自社のブランドを購買してくれることを)期待しているわけです。ただし、メディア・エンゲージメント研究はそれ以前からあったことは、留意に値します。つまり、東日本大震災でこの流れは加速したかもしれないが、元々関係構築重視の考え方は出てきていた、ということです。
 では、その元々の要因はなんでしょうか。関係構築が広告活動において重要である要因の2つめは、メディアが、広告主が、ひいては広告が信頼されていないことです。有史以来、メディアにしろ、広告主にしろ、世の他のものがそうであるように、端から端まで一点の曇りもない、清廉潔白な存在であったとは言い難いでしょう。組織として意図して清廉潔白でいたくないと思っているわけではないでしょうが、組織を構成するなにがしかの存在が、不注意で、あるいは故意に、当該組織の信頼性を貶めるような行動をとってしまい、その結果組織そのものの信頼性が落ちてしまうのです。企業不祥事が、その典型的な例であるといえるでしょう。以前であればよほど大きな不祥事でもなければマスメディアで大きく取り上げられることはなかったでしょうが、インターネットやソーシャル・メディアの発展に伴い、どこでどのような不祥事を行われているかがすぐに露見し、しかもそれが検索エンジンを通じて簡単に思い出される(蒸し返される)、ということが信頼性の毀損に大きく影響しています。
 特に近年、メディアによる不祥事が後を絶ちません。権力のチェック機能たるジャーナリズムを内包している存在だからこそ求められる清廉潔白さがあるにもかかわらず、自浄作用がそこまで追いついていないといえるのです。自社の広告主にとって不利なことや、自社自身の不祥事について、そうではない不祥事と比べて公平な報道がなされていないのではないか、ある立場の意見とそうではない立場の意見を視聴者や閲読者が比較できるに足る十分な情報が提示されていないのではないか。これらの意見が(ことの真偽や是非は別にして)インターネットを中心に多く出回っています。
 メディアが信頼されないと、そのメディアを通じて届けられるコンテンツも信用されなくなってきてしまいます。このコンテンツには、もちろん、広告が含まれます。広告を効かせるためには、メディアの、そして広告主の、信頼性を高めることが前提条件として求められます。これこそが、「ブランド・リレーションシップ」や「メディア・エンゲージメント」(特に後者)が最近議論の的となっている要因であろうと、筆者は考えます。

3. レピュテーション・マネジメント
 信頼を得るために、組織は良い評判を獲得しなければなりません。広報の世界では、この評判のことを「レピュテーション」といい、良いレピュテーションをどのように獲得するかについての組織的対応のことを「レピュテーション・マネジメント」と呼んでいます。
 下図は、レピュテーション・マネジメントの概念を図示したものです。順に説明していきたいと思います。まず、組織は、自社のアイデンティティを構築します。アイデンティティとは、これも難しい議論を別にすれば、「我々はこういう組織だよ」ということを自身で設定したものです。多くの場合、経営理念や社是といったものをベースに、実際にどのような経営活動を行っているかを加味して、そして重視したい価値観を反映させて、構築することになります。
 そして、構築したアイデンティティは、主にメディアを通じて情報発信をすることを通じて、消費者を含む様々なステークホルダーに伝える努力がなされます。なお、主にメディアを通じて、というのは、メディア以外を通じてもアイデンティティは発信されるということを意味しています。たとえば、ある会社の社員が、町内会活動で周りに迷惑ばかりをかけている場合、その当該社員の「迷惑をかける人間」というアイデンティティが周りに伝わるだけではなく、「そんな社員が所属している会社」というアイデンティティも周りに伝わります。
 重要なのは、組織が直接的にコントロールできるのは、このアイデンティティの構築と、それに関する情報発信までである、ということです。当該組織のイメージやレピュテーションはステークホルダー(当該組織との間に利害の関係がある者)のアタマの中で形成されるものであり、組織が直接手出しをすることはできないのです。
 イメージは、当該組織のアイデンティティに対して、ステークホルダー側に形成される鏡像です。イメージは、短期的、瞬間的なものであり、「さっきニュースでやっていたあの会社、いいよね」や「あの会社のあの活動はダメだな」という印象です。そのイメージが蓄積されて形作られるのがレピュテーションです。レピュテーションは、その意味で、より長期的に形成されるものであり、簡単には変化しないものです。
 レピュテーションを形成するイメージの蓄積には、主に3 つのものがあります。1 つめは、個人の中における時間的蓄積、ないしは量的蓄積です。当該組織に関する情報を長期にわたって入手する中で、ないしは大量に入手する中で、その組織に対する評価が定まり、評判を形成します。2つめは、人数による蓄積です。「職場の隣の机の人も言っていた」「親戚のおばさんも言っていた」ということを通じて蓄積されるものです。3つめは、ステークホルダー横断的な蓄積です。消費者であれば、同じ消費者がそう言っているというだけでなく、金融機関も(違う側面について)そう言っている、政府も(また違う側面について)そう言っているということで、だんだんと蓄積されるものです。
 先程も述べた通り、イメージやレピュテーションはステークホルダーのアタマの中に形成されるものですから、組織はこれらに直接影響を与えることはできず、情報伝達を通じて間接的な影響を与えながら、ステークホルダーにその形成を委ねなければならないというところに、その特徴があります。

4. メディアにとってのレピュテーション・マネジメント
 では、メディアはどのようにレピュテーション・マネジメントを行えばよいでしょうか。細かなことを挙げだすときりがないですが、ここでは重要と思われる2つの点について議論します。
 1 つめは、メディアは、自身を、全体として捉える必要があるということです。メディアで広告を担当している人は、往々にして、広告と「記事」は別物であることは自明であると考えます。逆に、記事を執筆する記者は、往々にして、記事と「広告」とは別であると考えているでしょう。しかし、レピュテーションがステークホルダーの側で形成されるということを考えるならば、重要なのは、ステークホルダーは当該メディアの広告と記事を分けて考えているのかどうか、ということです。
 筆者はJARO(日本広告審査機構)において「関西JARO広告研究会」の第2期および第3期のコーディネーターを務めていますが、その研究会では「JAROに寄せられる苦情は本来的には広告の苦情であるはずだが、よくよく苦情内容を聞いてみると新聞広告の苦情であったはずのものが実は記事内容や折り込みチラシに対する苦情であったということがままある」という話が出ていました。これは、ステークホルダーが、記事と広告とを別物であるとは捉えていないことを示唆しています。業界の常識は、世間では常識であるとは限らないのです。よって、メディアは全体として自身を把握しなければならず、アイデンティティ構築に際してはこの視点が重要となってきます。
 2つめは、その上で、(特に同業他社と)差別化する、ということです。ステークホルダーは当該組織のアイデンティティが他者のそれとは違うものとして認識してはじめて、当該組織のイメージと他者のイメージは異なるということが認識できるようになります。そのためには、有り体にいえば、差別化をする必要があります。ここでいう差別化には、商品そのものの差別化と、広告における差別化とがあります。前者は、経営戦略やマーケティングでいわれる差別化そのものであり、たとえば「日経ビジネス」であれば、ライバル誌であると目される「週刊ダイヤモンド」「週刊東洋経済」「プレジデント」などと異なる誌面構成や異なる切り口が求められるということです。
 後者の、広告における差別化は、「何を広告として掲載するか」という点が中心となります。ミクロの観点からいえば、考査をどのレベルに設定するかということを意味します。また、マクロの観点からいえば、広告を通じてどのような社会を形成していくのかを考え実行に移すということを意味します。差別化は、アイデンティティ構築の重要なポイントですから、必要に応じてこれら広告における差別化のポリシーについても情報発信を行う必要があります。
 「モノ」を売るのではなく、「コト」を売る、「ブランド」を売る、「世界観」を売るというのは、近年よくいわれることです。その意味で自組織の商品(ビークル)はもちろんのこと、そこに掲載する広告をどうするかにも哲学を持ち、その哲学をテコにして消費者とのエンゲージメントを確立することが必要でしょう。

5. 広告主にとっての(広告活動を通じての)レピュテーション・マネジメント
 次に、広告主の側に求められるレピュテーション・マネジメントの方策について考えます。広告主は広告活動以外の様々な活動を(生産活動や販売活動など/当たり前ですが)行っており、先程メディアの項でも述べた通り、それら全ての活動が全体として1 つのアイデンティティを形成していることは、いうまでもありません。このことを前提としたうえで、ここでは広告活動を通じてのレピュテーション・マネジメントについて、広告の基本である「メッセージ」と「メディア」の観点から議論します。
 まず、「メッセージ」の観点からのレピュテーション・マネジメントですが、広告メッセージがその組織のアイデンティティ形成に大きく影響を与えていることを意識することが肝要です。たとえば、挑発的なメッセージは、その組織が挑発的なスタンスを持っているということを(事実そうかどうかとは別に)意味します。その際に、それで本来その組織が持っているアイデンティティをうまく説明できるのかどうか、この点を考える必要があるということです。考査ぎりぎりを狙ってとにかく売り上げを上げることだけに邁進する組織は、場合によっては、社会の健全な発展に寄与することを拒否する組織としてステークホルダーの目には映るかもしれません。
 そして、メッセージがその組織の行動と親和性がある、ないしは一致していることも重要な要件です。言動一致がなければそれは上辺のリップサービスであるということであり、リップサービスであることが(たとえばソーシャル・メディアを通じて)明らかになった途端、その組織のレピュテーションは急降下するでしょう。
 「メディア」の観点からのレピュテーション・マネジメントでは、先程述べたメディア側の場合と呼応することになりますが、どのメディアが自らのアイデンティティを伝える広告に相応しいメディアであるかを意図的に選ぶことが必要です。最新の数理モデルを駆使したメディア・オプティマイゼーションも、たとえば広範囲のリーチをとることだけが目的であればいいのでしょうが、ステークホルダーからのレピュテーションを得るということになれば、短期的なイメージアップだけではなく、より長期的な視点で自社のアイデンティティとフィットするメディアやビークルを選ぶことが必要になります。一部の企業では、既に、リーチではなくレピュテーションの獲得を目標変数に設定し、掲載メディアを選択するという動きが出てきています。
 短期的なウリはもちろん重要です。そのためにグレーゾーンで積極的に仕掛けることも、時にはありうるでしょう。しかし、それだけでは長期的で変化のしにくい「良いレピュテーション」を獲得するには十分ではありません。組織のサステナビリティーを考えた際に、長短どちらの視点をとる方がいいのかが問われるわけです。

6. おわりに
 本論では、レピュテーション・マネジメントについて、主に広告活動との関係から議論を進めてきました。レピュテーションはステークホルダーの側で形成されるものであること、そしてそのために言動一致のアイデンティティを組織全体として構築し、ステークホルダーに発信すること、これらのことが要点であるといえるでしょう。
 「はじめに」で、消費者庁のガイドラインについて述べました。このガイドラインにどのように対応するかは、組織の自由ですし、現に様々な対応がなされています。ただ、サステナブルな組織を作る上でレピュテーションを獲得することを考える際、どちらの対応が望ましいかについては、組織内でじっくりと考える必要があります。例として健康食品を挙げましたが、同様のことは、もちろん、どのような業界にもあるでしょう。
 日経BP 広告賞という優れた広告活動に触れる機会に、レピュテーション・マネジメントについても併せて考えていただくと、今回の受賞作品を見る目が少し変わるのではないか、そのようなことを期待して筆をおきたいと思います。

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